ここの大項目はキーワードとしての出題数は多くないけど、ICFの理念や合理的配慮の提供など、従来の障害観とは異なる「新しい障害観」を理解するのが重要!その点を基礎知識として持っておくことで、事例問題にも対応できるはずです!
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1、障害の定義
・我が国の法律における障害者・障害児の定義は、障害者総合支援法と児童福祉法にそれぞれ示されています。
・障害者総合支援法に基づく障害の定義: 「障害とは、身体的、精神的または知的機能のいずれかが一般の水準に達しない状態が継続する事である」
・主に障害は①身体障害②知的障害③精神障害に分類されます(他に難病による障害が生じている者も障害者(児)に含まれる)
障害 | 内容 | 手帳 |
身体障害 | 視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害(内臓や免疫の機能障害により、日常生活が著しく制限されること)に分類される | 身体障害者手帳 |
知的障害 | 知的能力の障害が発達期より見られ、日常生活が著しく制限され、何らかの特別な支援を必要とする者を指す(DSMー5においては「知的能力障害」と呼ばれる) | 療育手帳 |
精神障害 | 統合失調症など様々な精神疾患だけでなく、発達障害も含まれる。(しかし、発達障害独自の支援と制度の必要性から、2005年に発達障害者支援法が施行された) | 精神障害者保健福祉手帳 |
*療育手帳制度は法律で定められた制度ではなく、各都道府県もしくは政令指定都市が資格判定と手帳の発行を行うため、地域によって「愛護手帳」「みどりの手帳」など名称が異なったり、資格判定の基準が異なったりする(身体障害者手帳と精神障害者保健福祉手帳は法室で定められた制度)
* 「身体」「精神」「知的」の3障害体系を統合し、市町村が1元的にサービスを提供する障害者自立支援法が施行されたのは2006年4月である
* 3障害体系ではサービス対象から外れてしまいがちであった発達障害を対象とした発達障害者支援法が施行され、発達障害者支援センターを都道府県に配置するようになった
□身体障害、知的障害及び精神障害
2、国際障害分類(ICIDH)、国際生活機能分類(ICF)
・ICIDH:障害のマイナス面に注目し、かつ障害を「克服するもの・乗り越えるもの」とみなす考え方(リハビリテーションモデル)
自閉スペクトラム症であれば、生得的な脳機能の障害(機能障害)により、コミュニケーション能力に困難を持ち(能力障害)、結果として他者とうまく関係性を築いて適応的に生きることが難しい(社会的不利)と捉えることができます
・ 「生活機能の障害は、身体の機能不全によって能力低下が引き起こされる中で生じる」とする考え方
・ICF
⇨「何ができないか」だけでなく「何ができるか」に注目し(ストレングスモデル)、医学的な治療・対処が困難であっても、個人の強みや環境資源を生かした社会的な活動や参加によって、困難の程度が軽減することを想定している
⇨健康の構成要素に関する分類であり、人間の健康を「生物心理社会モデル」に基づいて捉えようとしている
自閉スペクトラム症であれば、生得的な脳機能の障害(心身機能・身体構造)により、他者とうまくコミュニケーションすることが難しく(活動)、集団生活を送ることが難しいかもしれません(参加)。
ただし、発達の遅れを持つ子供と親が集まる療育グループなどがあり(環境因子)その療育グループに定期的に出席することで(参加)、自分の考えを少しずつ伝えられるようになる可能性があります(活動)。
また、プラモデルなどの作成が得意で(個人因子)、プラモデルの作成を通じて(活動)、関連するイベントなどに参加することができ(参加)、結果として、療育グループへの参加やプラモデルの作成が自己肯定感につながり、以前よりも安定している可能性があります(健康状態)
ICFとストレングスモデルに基づく障害の「新しい理解と支援」は近年の障害者(児)支援の軸となる考え方です
3、精神疾患の診断分類・診断基準
・ICD-10:WHOが発表した国際疾病分類。ICD-11が2022年1月に発行される予定。ICD11では新たにゲーム障害が認定され、性同一性障害という表記がなくなる見込み。
・DSM-5:アメリカ精神医学会が発行している、精神疾患の診断・統計マニュアル
⇨症候論的記述:観察・聴取可能な症状と基に各疾患を記述すること。
結果、表面的な症状だけで診断名をつけているという批判も根強いよ!
⇨操作的診断基準:あらかじめ設定された操作を行えば、自ずと診断にたどり着くという診断方法のこと。
医師の経験と直観ではなく、誰もが統一した診断が可能になることを目的に作成されているよ!
・DSMー5では、 一つ一つの病気について程度の差を想定し、それを診断することを目的としている(次元モデル)。 また、様々な病気の併存・併発を想定しており、横断的症状尺度を用いて症状の全体像をとらえることも意図している
*DSMー5での分類を求められる問題が、第4回試験では2問出題されていたので、「DSM‒5 病名・用語翻訳ガイドライン」に一度目を通しておくことをオススメします!
4、アセスメント
⇨観察・面接・心理検査を用いて、クライエントの全体像を把握すること
・障害者(児)のアセスメントにおいては、障害とされる特性だけでなく、包括的に特性を把握する(包括的アセスメント)ことで、強みを生かす支援につなげることが重要
□障害者(児)の心理社会的課題と必要な支援
5、障害者(児)の基本的権利
・2006年、国連で障害者権利条約が採択されたことにより、我が国の障害者(児)の制度改革は大きく進んだ。この条約は、障害を医学モデルではなく、社会モデルとして捉えていることに大きな特徴がある
○障害に基づくあらゆる差別(合理的配慮の否定を含む)の禁止
○障害者が社会に参加し、包容されること(インクルージョン)の促進
○条約の実施を監視する枠組みの設置
・2011年に障害者基本法が大幅に改正され、障害者(児)の日常生活や社会生活の制限は「障害(生物学的特性)」と「社会的障壁」によるものと定義づけられた。生物学的特性だけでなく、社会的障壁にも注目したことが、我が国における「医学モデル」から「社会モデル」への転換点である
・社会的障壁とは、日常生活・社会生活を営む上で障壁となるような事物・制度・慣行・観念などのこと。そして、この社会的障壁の解消に必要とされるものが、合理的配慮である
・ 社会モデルの導入によって障害を個性として捉える視点が強まるほど、本人だけでなく周囲の心理面のケアが重要になってくる
【スティグマ(偏見・差別)】
・セルフスティグマ: 自身に対する被差別者としてのネガティブな烙印の事で、自尊心低下などの原因となり得る
・社会的スティグマ: 障害者などに対して社会が抱くネガティブな烙印のこと。「感情・認知・行動」の3要素から成り立っている
・反応時間による潜在的スティグマの評価:本人の顕在意識ではなく、無自覚な心理的評価(快・不快)を、刺激提示時の反応潜時を測定することによって評価する
*公認心理師第1回試験出題(問41)
6、合理的配慮
・障害を持つ人々の人権が保証され、教育・就労など社会生活において平等に参加できるよう、各々の障害特性や困難に応じて行われる配慮のこと
・障害者差別解消法により、行政機関は合理的配慮の提供が義務付けられた(民間は努力義務)。ただし、障害者雇用促進法の改正により、障害者雇用に関しては、民間事業主に対しても合理的配慮の提供が義務付けられるようになった。なお障害者雇用に限らず、合理的配慮の提供を民間に義務付ける改正障害者差別解消法が2021年5月に成立し、3年以内に施行される見込み(施行されてからは民間も義務となる)
・何を持って「合理的」であるかは明確ではない(以下・内閣府発表の合理的配慮の提供事例)
○聴覚・言語障害・発達障害⇨黒板の撮影を認める
○知的障害⇨役所が公表した調査報告書の要点を抜粋した概要ペーパーを作成して振り仮名を付ける
*内閣府発表の「合理的配慮の提供事例」
・2011年の障害者基本法改正に伴う、障害を心身機能の障害と社会的障壁からなるものと捉える新たな障害観において、合理的配慮は社会的障壁の解消を目指すものである
・合理的配慮の前提として、基礎的環境整備が必要である
基礎的環境整備とは、合理的配慮を行うための機材の準備や設備の設営、人材の確保などのことだよ!文部科学省によって定められており、学校設備の整備や特別支援学校の設置も含まれています!
・基礎的環境整備の内容や状況によって提供される合理的配慮が異なる
あとね、合理的配慮と類似した概念に、ユニバーサルデザインやインクルーシブ教育があるよ!
・ユニバーサルデザイン:障害の有無に関係なく、全ての人が使いやすいように製品や建物、環境などをデザインすること。
【ユニバーサルデザインの7原則・考案者ロナドメイスが提唱】
「公平性」「自由度」「単純性」「明確さ」「安全性」「体の負担の少なさ」「空間性」
・授業のユニバーサルデザイン化については、発達障害児のインクルージョンを目的とする場合が多く、柱は「焦点化」(目的を絞って明確にする)「視覚化」(目に見える形で示す)「共有化」(思考やプロセスを他の学習者と共有する)という3要素を取り入れることを提案している
*公認心理師第4回試験に出題
・ユニバーサルデザインと似て非なる言葉にバリアフリーがある。バリアフリーとは、障害者や高齢者のための設備や制度を指すことが多い。
すでに設置されたトイレに対し、新たに「障害者専用のトイレ」を作ることは、バリアフリーの考え方です。
それに対してユニバーサルデザインは、障害者や高齢者に限定せず、全ての人のための設備や制度を目指しています。
上記の例で言うと、設計段階で「誰でも使えるトイレ」を目指し、障害者でも健常者でも公平に利用できるトイレを作ることです。
・インクルーシブ教育:障害や民族の違いによって分けない教育であり、誰をも排除しない教育のこと。困難がある子を別教室に分けたり、クラス全体の授業の難易度下げたりするのではなく、誰もが学校生活や授業に参加し興味を持ち、理解し納得できる工夫を目指している。
・教育のユニバーサルデザインとして、背景にある理念は共通しているが、個別の配慮である合理的配慮に対して、教育のユニバーサルデザインは教室全体の設計や働きかけが主である点で異なる。
○今は何をする時間なのか、目で見てわかるようになっている
○教室の前面は、必要最低限の刺激量になっている
○できたかできなかったかの基準が明確である
7、療育
・子供の困難に対し、治療や困難の消失を目指すのではなく、個々の特徴に合わせて暮らしやすい環境を作り、適応力を育てることで困難を軽減していくこと。
リハビリテーションとは異なるので注意です!前述したICIDHの考え方ではなく、ICFの考え方ですね!
8、特別支援教育
⇨発達障害児や、視覚・聴覚などの障害を持つ者に対し、個人が持っている能力を最大限に生かし自立できるような支援を提供するために、一人一人の状況に合わせて行われる教育のこと(文部科学省の学校教育法施行規則によって定められる)
・特別支援教育の推進のために、特別支援教育コーディネーターと呼ばれる校長から指名された教員が、保護者に対する相談窓口や関係機関との連絡調整、校内での支援態勢作りのまとめ役を行う
⇨具体的には、 特別支援教育に携わる教職員、あるいは保護者からの相談を受けたり、学校内外の関係者との調整をしたり、特別支援教育の計画立案を促進したり、といった役割が想定されています
・従来の盲学校・聾学校・養護学校は特別支援学校となり、設置者(都道府県など)の判断で複数の障害種を対象とすることが可能となった。
これによって、地域のニーズに合わせた対応や、重複障害のある子供に対する適切な対応が可能となったんだよ!
・小中学校には特別支援学級や通級による指導の制度がある(2018年度より高等学校でも通級が実施)
・特別支援学級:小中学校に設置され、障害のある子供一人一人に応じた教育を行う。主に知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、弱視、難聴、言語障害、情緒障害などが対象となる。
・通級による指導:通常の学校に在籍し、ほとんどの授業を通常の学級で受けながら、障害の状態に応じた特別な指導を週1ー8回ほど特別な指導の場で行う。自立活動と各教科の補充指導が行われる。主に言語障害、自閉症(自閉スペクトラム症)、情緒障害、弱視、難聴、学習障害(限局性学習症)、注意欠陥多動性障害(注意欠如・多動症)、肢体不自由、病弱・身体虚弱などが対象となる。
・知的障害など、 通常学級での指導対象となっていないものは、通級の指導対象ともされないので注意です!
・ 特別支援学級や通級については、特別な教員免許は必要ありません
特別支援教育の就学には専門家や保護者の意見聴取が必要だよ!
9、就労支援
・就労移行支援:障害者の中で、一般企業への就職が可能だと見込まれる人を対象に、一般企業への就職を前提として、知識と能力を訓練する
・就労継続支援A型:障害により企業で働くことが困難な者に対し、雇用契約に基づいて、生産活動、その他の活動の機会の提供、その他の就職に必要な知識及び能力の向上のために必要な支援を行う
・就労継続支援B型:障害により企業などに就職することが困難な者に対し、雇用契約を結ばずに働く場所を提供する。負担の少ない作業を主に担当する。
⇨就労を継続していくのが主な目的だが、就労のために必要な訓練を行うことも示されている
⇨障害者基礎年金1級受給者は対象となる
A型とB型の最も大きな違いは、「雇用契約の有無」です!
就労移行支援 | 就労継続支援A型 | 就労継続支援B型 | |
目的 | 生産・職場の訓練(一般就労等へ) | 就労機会の提供 | 就労機会の提供 |
通所先 | 就労移行支援事務所 | 就労継続支援A型事務所 | 就労継続支援B型事務所 |
雇用の有無 | 雇用関係なし | 雇用関係あり | 雇用関係なし |
賃金・工賃 | 通所サービス料金の支払い | 最低賃金以上が支払われる | 工賃(手間賃)が支払われる |
対象者の条件 | 18歳以上65歳未満の障害者 | 18歳以上65歳未満の障害者 | 年齢制限なし |
利用期間 | 2年 | 制限なし | 制限なし |
・就労定着支援:就労移行支援、就労継続支援、生活介護、自立訓練の利用を経て、通常の事業所に新たに雇用され、就労移行支援などの職場定着の義務・努力義務である6ヶ月を経過したものを対象とした支援。(就労定着支援の利用期間は3年・以下支援内容)
①就労の継続を図るために、障害者を雇用した事業所、障害福祉サービス事業者、医療機関などとの連絡調整
②障害者が雇用されることに伴い生じる日常生活または社会生活を営む上での各般の問題に関する相談、指導及び助言そのほかの支援
10、ソーシャルスキルトレーニング
・対人不適応の原因をソーシャルスキルの未学習によるものと考え、スキルの工場や不適切な行動の修正を図り、対人不適応の解消や予防を目指すトレーニング
11、応用行動分析
・先行刺激、行動、結果という三項随伴性のアセスメント(機能分析)をもとに支援を行うこと。オペラント条件付けの理論を臨床応用したもの
A 先行刺激 | B 行動 | C 結果 | 今後 |
お菓子を見つける | 泣く | お菓子をもらえる(正の強化) | お菓子を見つけると泣くようになる |
お菓子を見つける | 親にたずねる | お菓子をもらえる(正の強化) | お菓子を見つけたら親に聞くようになる |
12、認知行動療法
・主にケースフォーミュレーションによる問題状況のアセスメント、認知療法や行動療法的な技法(応用行動分析も含む)に基づく介入、ホームワークによる実践というプロセスで成り立っている
13、TEACCH
・自閉スペクトラム症の当事者及び家族を支援するための個別教育プログラムで、生涯を通し、それぞれの人生の段階に合わせたサービスの提供を特徴としている
・アメリカで開発され、州や自治体の協力のもと進められているコミュニティ密着型の支援
【基本理念】
① 理論ではなく、観察を通じた自閉症の理解
② 保護者と専門家の協働
③ 治療ではなく、より良い適応的生活が目標
④ 個別の正確な評価
⑤ 構造化された指導法
⑥ 認知理論と行動理論の重視
⑦ スキルを伸ばし弱点を受容する
⑧ 関わる人々はジェネラリストであること
⑨ 生涯にわたり地域に根ざした生活を送る
・ここでポイントとなるのが構造化であり、場所と目的を1対1にする(場所の構造化)、いつ何をする時間なのかを明確にする(時間の構造化)など、視覚的に理解しやすい環境を整えることが主な特徴
【PECS】
⇨絵カード交換式コミュニケーションシステムの略称で、言語的なコミュニケーションに困難を抱える子供のための補助代替コミュニケーションツールのこと
・背景理論として応用行動分析がある
・絵カードを意思伝達の手段としている
・自閉スペクトラム症の子供に対する補助代替コミュニケーションツールとして活用されている
第2回公認心理師試験出題(問129)
14、ペアレントトレーニング
・応用行動分析を基に、子供への肯定的な働きかけを親が習得すること
・子供の行動を三項随伴性に基づいて分析・理解し、適切な強化や罰の操作を目指す
・目標行動を明確にした上で、その目標行動が生起した際に、子供を認める言葉とともに報酬を与えることで、目標行動を強化していく。目標行動が生起しやすくなるように、先行刺激となる状況を変更する場合もある
A 先行刺激 | B 行動 | C 結果 | 今後 |
食事中にテレビが気になる | 食事を中断する | 食事が進まない | 落ち着いて食事が取れない |
食事中はテレビを切る | 食事がとれる | 褒められる | 落ち着いて食事が取れる |
・家庭場面ならば繰り返し働きかけができる上に、実際の生活場面なので専門機関で行うよりも、より現実的な働きかけになりやすい
発達障害だけでなく、虐待を受けた子供や不登校や非行を繰り返す子どもなどに
対応したプログラムも開発されているよ!
・この記事は赤本 公認心理師国試対策2022 (KS心理学専門書) を用いて要約しています。
・公認心理師受験専用に様々な参考書がありますが、私はこれ1冊を徹底的に使い込むだけでも合格点は目指せると考えています!
・何の参考書を買うか迷った時は、まず赤本 公認心理師国試対策2022 (KS心理学専門書) がおすすめです😌
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